多くのママパパが抱える子育ての不安に助産師さんが寄り添うBlog

#07
つらい体験

自己紹介の章で、私が看護学生時代に産科病棟で「つらい体験」をして、そのことが助産師になるきっかけになった、というお話をしていますが、そのつらい体験を書いてみたいと思います。

「つらい体験」をきっかけに 産婦さんの気持ちに寄り添える助産師へ

「つらい体験」をきっかけに産婦さんの気持ちに寄り添える助産師へ

当時の看護学校では、2~3週間おきに各病棟を周って実習をします。患者さんを受け持ってその方の病歴をみて、治療方針を知り、現在の状態を把握して、今何が必要なのか、何ができるか、など看護計画を立てるのです。産科病棟では、現在陣痛がきている人に付沿って、無事に出産できるように援助する、という実習だったと記憶しています。私の受け持ったその妊婦さんは、順調に出産に至ったように見えました。
通常ですと、赤ちゃんが産まれて産声が聞こえると、出産した産婦さんに赤ちゃんと対面してもらいますが、そのときは、赤ちゃんを産婦さんには見せずにすぐに新生児室に連れて行ってしまいました。小さな産声を聞いた私も「どうしたんだろう??」とその産婦さんと同じように訝っていました。その答えは、新生児室に行ってみて、すぐわかりました。

実はその赤ちゃんは無脳症の児だったのです。無脳児とは、胎児のときに、脳や脊髄の形成が阻害されて、脳の一部あるいは大部分が欠損していることをいいます。脳以外の臓器に異常はないことが多いので、ママのお腹の中で成長していきます。
出産しても、大脳や脳幹が発達していないので、死産か1週間程度しか生存しないことがほとんどです。そのため、産んだ産婦さんには、赤ちゃんは見せない、とのことでした。
日本では、1,000人に1人の確率で発症しています。
無脳児をみたのが初めてのことだったし、産んだ産婦さんに赤ちゃんを見せない、ということもそうでしたし、若い私は、とにかく大きなショックを受けました。

出産したのですから、母体としては、乳房が張ってきて、母乳がでます。でも飲む児がいないので、母乳を止めなくてはいけません。できるだけ刺激しないように晒しを巻いたり、上から冷やしたり・・・などしておっぱいが張ってこないようにします。

先生がどのように説明したのかわかりませんでしたが、ずっと産婦さんは泣いていました。なまじ産声を聞いてしまったので、信じられない思いでしょうし、よけい辛さがましているように見えました。私は、なんと声をかけてよいのかわからず、そばにいました。ただただ側にいることしかできませんでした。そんな自分が歯がゆくて、寄り添える「助産師になろう!」と決意したのです。

そのような辛いことが起こったときにどう言葉をかければよかったのか、その正解は今でもわかりません。でも同じ「そばにいる」という行動でも、産婦さんにとって、今の私なら違って感じてもらえるだろうと思うのです。どうしていいかわからないという自分だけの気持ちではなく、産婦さんのつらい気持ちに寄り添って一緒にいることができる私がいるのではないかと思います。

「産まれる」という神秘 出産に常につきまとうもの

「産まれる」という神秘出産に常につきまとうもの

無脳症は、神経管閉鎖障害によって発症します。神経管の下の部分が塞がった場合は、「二分脊椎」となり、運動障害や排泄障害を引き起こします。神経管の上の部分が塞がった場合に無脳症となり、脳の形成が不完全な状態で生まれてくるのです。
残念なことに現在でも、神経管閉鎖障害が起こる原因は、はっきり解明されていないのですが、次の3つが関係しているのではないか、と考えられています。


  • 遺伝的要因:外的要因ではなく、遺伝的なものの可能性があります。
  • 妊娠中の環境:妊婦に糖尿病や肥満がある、てんかん薬を服用している、妊娠前期に高熱を出した、大量の放射線を浴びた、ビタミンAを過剰に摂取した、また飲酒や喫煙、母体の栄養状態など、妊娠中の胎児の環境によって起こる可能性があります。
  • 葉酸の不足:DNAの合成を促す栄養素である葉酸が、妊娠初期に不足していると、胎児の神経管閉鎖障害がでるリスクが高まることがわかってきています。ビタミンBの一種である葉酸を取ることが発症のリスクを低減させる、として厚労省より妊活中、妊娠中の方は積極的に葉酸を摂るべきである、と通知が出されています。

そしてその後私は、助産師として300人ほどの赤ちゃんを無事に取り上げましたが、無脳症の児には、1回も会いませんでした。今となっては、大変貴重な忘れられない体験となりました。

多くの妊娠、出産にかかわって感じることは「産まれる」という神秘とともに誰もが安全である、とは決して言い切れないことが出産には常につきまとうものである、ということを決して忘れてはいけないと思うのです。

毎月 第2・第4木曜日に更新

次回は 2024年 2 月 22 日(木)に配信予定
お楽しみに!

助産師 南部洋子先生
お話いただいたのは

助産師 南部 洋子 先生

東京医科歯科大学医学部付属看護学校を卒業・国家資格看護師免許取得、日本赤十字社助産婦学校卒業・国家資格助産師免許取得後、東京医科歯科大学付属病院産婦人科病棟にて助産師として勤務。300人以上の出産に立ち会い赤ちゃんを取り上げる。その後女性のカラダをメインとした相談室「株式会社とらうべ」を設立。女性の味方としてすべての年齢での悩み相談を受ける。女性が自分の身体を自分のものとして理解する事。それが全ての悩みの解決に繋がっていくとの信念を持ち、日々向き合っている。
趣味は、夫と旅行、映画・音楽鑑賞、健康麻雀など。

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