多くのママパパが抱える子育ての不安に助産師さんが寄り添うBlog

#40
口唇口蓋裂について

最も頻度の高い生まれつきの疾患 口唇口蓋裂とは

最も頻度の高い生まれつきの疾患口唇口蓋裂とは

口唇口蓋裂をもった赤ちゃんは、外表先天異常(目に見える部位の奇形)のひとつで、口唇(くちびる)、歯ぐき、口蓋(口の中の天井部分)に割れ目が残ったまま生まれてきます。見た目の問題だけではなく、赤ちゃんのときには哺乳が困難な状態になる児がいることや、中耳炎にかかりやすいこと、言葉のトレーニングを必要とする子がいること、歯科矯正治療を必要とすること、などの問題がこの疾患の特徴と言えます。

治療については、基本的な手術として裂けている部分を縫い合わせることですが、成長に伴って生じた変化に対しては追加の手術を必要とすることもあります。現在の医療技術を用いると、手術を受けたことがほとんどわからないくらいの結果を得ることができます。
現在では出生時から、小児科、形成外科、耳鼻科、口腔外科など多様な高度医療職種によってチーム医療が行われるようになっていて、治療後はほとんど他の子どもと同様な生活を送ることが可能になります。きちんとした手術が行われれば、将来の心配はありません。

ちなみに、ベッタの哺乳びんは、口唇口蓋裂協会から口唇口蓋裂の児の哺乳に適しているというお墨付きをもらっています。

日本では出生児の500~600人に1人くらいの割で発生するといわれていて、最も頻度の高い生まれつきの異常の一つです。人種によって違いがあることも知られていて、東洋人に頻度が高いと考えられています。
発生原因は、不明な点が多いのですが、多数の因子が関係しているとされています。
母胎の環境、何らかの薬剤、遺伝的因子、全くの偶然、など小さな原因が積み重なってそれがある一定の限界を超えたとき発生すると考えられています。ただし、現在の医学では、遺伝的影響がどの程度関係しているのかを知る手段はありません。

動揺したり不安になっても 心の奥には母親の強さ

動揺したり不安になっても心の奥には母親の強さ

実際に口唇口蓋裂をもった赤ちゃんを出産したお母さんのショックはかなりのものです。私が勤務していた病院で、この疾患をもって生まれた赤ちゃんのお母さんのことを紹介しましょう。
私の勤務していた大学病院では、出産後次の日くらいから新生児室にママがきて、3時間おきに授乳をするのが通例です。でもそのお母さんは、皆が来る30分くらい前にきて、ミルクを飲ませて、多くのお母さんが来室する頃には、自分の部屋へ戻っていき、すれ違いのようになっていました。助産師として新米の私は「他のお母さんたちと顔を合わせたくないのだな、仕方ないな」という気持ちで時間がずれて来室することを暗黙の了解にしていました。
退院が近づいて、主治医の女医先生がそのお母さんと面談することになり、私もその場に立ち合いました。
先生は、「授乳はできていますか」「どうですか」「これからのことで心配なことは?」などと優しく質問しました。するとお母さんは「これからどうして行ったらいいかわからない」と泣き出しました。
しばらくして、先生からこれからの治療方針、手術のことなどもう一度詳しく説明がありました。私のいた大学病院は医学部と歯学部が両方ある大学なので、口唇口蓋裂の赤ちゃんが生まれた場合は優先して手術などをしてくれる手筈がすぐ整えられているのです。
退院後どうやって進んでいけばいいのかなどのことは、生まれてすぐに両親に説明していました。
女医先生は「あんなにかわいい子をなんで隠そうとするの?何も恥ずかしいことはないのよ、堂々と育てなさい!」とやさしく、でもきっぱりとお母さんに伝えました。
口唇口蓋裂の赤ちゃんを何人か見ましたが、本当にみんな顔がとてもかわいいのです。
私は、最初は、複雑な気持ちで「そういわれても難しいのでは??」「先生ちょっと厳しいのでは??」と思ったりしていました。でもご自身も母親である女医先生は、ゆっくりとしっかりとお話されていくうちにお母さんは顔を上げて、先生の顔をみて話をするようになってきました。
そして、次の授乳のときから、驚くことに皆と同じ時間に授乳にきて、同じようにお母さんたちとお話をしたりして、戻っていくようになりました。表情も明るくなり、母親として腰が据わったようにみえました。

私は、お母さんの強さと同時に、女医先生のお話のすばらしさに感動しました。
厳しくても愛情をもって話をすれば、こんなにも通じるものだと驚きました。
そして、このような話は、医師でなくてもできることだ、単に同情することに終わらず、お母さんの強さを引き出せる助産師になろう!と決意したのです。

「女性は弱し、されど母は強し」という言葉があります。
弱い女性が母になると強くなる、という意味だと思いますが、今女性が弱いかどうかは別として、母が強いのは確かなことです。自分が生んだ子どもを守っていくのは自分だ!という強い意志があります。お腹の中にいるうちにだんだん決意していくものだと思いますが、それでも思いもかけないこと、今回のように口唇口蓋裂をもった子どもが生まれてしまったときなどは強いショックを受けますし、動揺します。私が育てられるだろうか、と不安にもなります。
でも心の奥には、母親の強さを持っているのです。
それを女医先生に引き出してもらったのだと思うのです。
そのお母さんの顔は、以前のような不愛想なそっけないものではなく、何かふっきれたようなさわやかささえ感じることができました。

外表型先天異常でしたが、目に見えない異常がみつかるかもしれません。
でもどんなときも子どもの一番の味方となり強い母でいてほしいものです。
それができるのはこの子の母親だけですから。

内容に関するご意見・ご感想や
育児のお悩みを募集

「助産師さんに聞いてみた」では、今後取り上げて欲しいお悩みを随時募集しております。お問い合わせフォームからご意見・ご感想や育児にまつわるお悩みなどをお寄せください。「助産師さんに聞いてみた」のリーフレットをご希望の場合もお気軽にお問い合わせください。

件名欄を「助産師さんに聞いてみた」に関するご意見・ご感想に

お問い合わせフォームの件名欄を「助産師さんに聞いてみた」に関するご意見・ご感想を選択の上、内容を入力し送信ください。

  • 内容確認のためご連絡させていただく場合がございます。
  • 返信や記事に取り上げる等のお約束はできません。あらかじめご了承ください。



毎月 第2・第4木曜日に更新

次回は 2025年 7 月 10 日(木)に配信予定
お楽しみに!

助産師 南部洋子先生
お話いただいたのは

助産師 南部 洋子 先生

東京医科歯科大学医学部付属看護学校を卒業・国家資格看護師免許取得、日本赤十字社助産婦学校卒業・国家資格助産師免許取得後、東京医科歯科大学付属病院産婦人科病棟にて助産師として勤務。300人以上の出産に立ち会い赤ちゃんを取り上げる。その後女性のカラダをメインとした相談室「株式会社とらうべ」を設立。女性の味方としてすべての年齢での悩み相談を受ける。女性が自分の身体を自分のものとして理解する事。それが全ての悩みの解決に繋がっていくとの信念を持ち、日々向き合っている。
趣味は、夫と旅行、映画・音楽鑑賞、健康麻雀など。

助産師として多くのママをサポートした経験から、
知っておいて欲しいこと

Check! あいまいさに耐えるということ
助産師さんに聞いてみた - TOP
INDEX助産師さんに聞いてみた

多くのママパパが抱える子育ての不安に助産師さんが寄り添うBlog

→ more